いわゆる開心術では、心筋保護液による化学的心停止が不可欠です。
心臓麻酔とは、すなわち心停止した心臓をいかに”蘇生”させ、全身の循環を維持するか、ということに尽きます。
心筋保護液のpracticalなところというよりは、心筋虚血の生理学的なところを主に皆で振り返りました。
開心術のほとんどが心停止と無血視野を必要とする.
→大動脈遮断による全心筋虚血に対して,心筋障害を最小限にするために心筋保護液を注入する必要がある.
心筋の酸素消費と虚血について
通常の心筋の酸素消費量は 8〜10ml O2/min/100g. (参考:脳組織は?)
ヒトの心臓は300g程度なので,心筋の酸素消費量は全身の10%.
安静時の冠動脈血流はだいたい250ml/min=心拍出量の5%
心筋組織は酸素摂取率が異常に高い:通常冠静脈血の酸素飽和度は30%程度
心筋の酸素消費量(MVO2)の変化
常温の人工心肺下で,empty beatingの状態:6ml O2/min/100g (だいたい通常の3分の2)
常温の人工心肺下で,化学的心停止の状態:1ml O2/min/100g (10分の1まで減少!)
→冷却するともっと下がる(Q10の法則)
★37℃の状態で,empty beatingとVfの心臓,どちらが酸素消費多い?
★32℃の状態で,empty beatingとVfの心臓,どちらが酸素消費多い?
★なぜ,低体温・化学的心停止にしても心筋の酸素消費量はゼロにはならないのか?
心筋細胞のエネルギー源は?
好気性代謝と嫌気性代謝,ATPの産生効率はどのくらい違う?
虚血中の心筋細胞内ではどのような変化が起きている?
虚血再灌流障害(ischemic-reperfusion injury)
Ca2+ overloadのメカニズムについて
(虚血中の心筋細胞内のできごと)
嫌気性代謝で乳酸が蓄積,細胞内アシドーシス
→Na+/H+交換機構により細胞内からH+を排出,細胞内にNa+が蓄積
(再灌流時の心筋細胞内のできごと)
乳酸が再灌流によりwash outされ,さらに細胞内からH+が排出されNa+が蓄積
アシドーシスが改善するためNa+-Ca+ pumpの活動が亢進し,細胞内にCa+が蓄積
→細胞内のproteaseを活性化させ、細胞膜の機能やintegrityを障害、心筋収縮に関わるタンパク質の機能低下
心筋保護液の種類
化学的心停止させるには高カリウム溶液で心筋の静止電位を脱分極させる必要あり
主に,細胞外液型と細胞内液型がある.
細胞外液型:St. Thomas溶液が代表的.
細胞内液型:Bretschneider溶液が代表的.活動電位に必要なNa流入を起こさせない
★当院の心筋保護液の組成は?
Blood cardioplegiaとCrystalloid cardioplegia→現在は4:1で投与するのが一般的とされる.
#最近米国では成人心臓手術でもDel Nido solutionが用いられることが増えてきていると聞きます。(Cleveland clinicなど)初回の単回投与で長い心筋保護を維持できるのが利点のようですが、どんな感じなのでしょうか。