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COVID-19と対峙する麻酔科医のためのリンク集

COVID-19 pandemicを受けて、欧米ではすでに定時手術を含めた通常診療が制限され、今後日本でも麻酔科医がICUないし手術室でCOVID患者の診療に当たることも十分に予想されます。 以下のリンクが、お役に立てば幸いです。 随時更新していきます。 ...

2020年2月21日金曜日

抄読会 FLASH Trial (2020/2/18)

専攻医のA先生が抄読会でFLASH Trialについてまとめてくれました。
これまでのHESのStudyの流れについてもわかりやすくまとめていて、終了後のディスカッションも盛り上がりました。

*Introduction
HESとは?
6%HES 130/0.4 の意味(重量平均分子量,置換度,C2/C6比)

*これまでのHESや膠質液関連のStudy
-SAFE (Albumin vs crystalloid)
-VISEP (sepsis患者が対象, 10%HES vs Ringer)
-6S (sepsis患者が対象, 6%HES vs Ringer)
-CHEST

いずれも循環動態不安定な術中患者(急性出血によるhypovolemia)を対象としていない

*Revised Starling's Lawについて
Glycocalyxの存在についてクローズアップ
必ずしも膠質液の輸液はすべてが血管内にとどまるわけではない(特にGlycocalyx layerが障害されるような状況において)

Effect of Hydroxyethyl Starch vs Saline for Volume Replacement Therapy
on Death or Postoperative Complications Among High-Risk Patients Undergoing Major Abdominal Surgery
The FLASH Randomized Clinical Trial


Futier E, et al.

JAMA. 2020;323(3):225-236. doi:10.1001/jama.2019.2083

術後臓器障害のリスクが高い外科手術患者における、fluid resuscitationとしての6%HES130/0.4の使用は、生理食塩水の使用と比較して術後合併症を減らすか?

Multicenter, double-blinded, randomized controlled trial

Inclusion criteria
-全身麻酔下に腹部手術を受ける、術後合併症リスクの高い18歳以上の患者(AKI risk index class 3以上)

Exclusion criteris
-急性心不全あるいは心筋虚血がある
-GFR<30の慢性腎臓病患者
-術前の血管作動薬の使用
-HESのcontraindication
など

Stroke volumeを指標にしたFluid challenge algorithm
-5分間で250mlのHES or 生食を急速投与
-SVが10%以上増加するかどうか?
増加なし→fluid challenge中止
増加あり→さらに250mlの輸液をボーラス投与
-その後もSVが10%以上低下した際にfluid challengeを行う

Primary outcome:死亡/主要臓器合併症(AKI KDIGO1, MV/NIVを要する急性呼吸不全, 急性心不全, sepsis, 14日以内の再手術)のcomposite


*Results
HES-group n=389 vs NS-group n=386 がintention-to-treat analysis

Baseline characteristics
HES群のほうがDM患者がやや多い (50% vs 41%)
肝胆膵外科手術、結腸手術、膀胱全摘など

Fluid challenge HES群で中央値1000ml vs NS群で1250ml 
その他術中の維持輸液、術後の維持輸液/Fluid challengeの量に両群で有意差なし

Primary outcome HES群 36% vs NS群 32%で有意差なし
AKIはHES群 22% vs NS群で16%で、統計学的には有意ではないがHES群で多い傾向に。



#医局員のDiscussionでは、
ーHES群のほうがDM患者が多いのでAKIが増える傾向にあるのは当然では?
ーどのような手術中のsituationでHES投与が正当化されるか?(脊麻帝王切開患者のPreload/Co-loadなど)
ー術中5%アルブミンを使うsituationとは?(敗血症患者の麻酔で、血液製剤の適応はないがどうしてもfluid resuscitationでcolloidを使用したいときなど) ※当院は手術室でのアルブミン使用は非常に少ない
などが挙がり、盛り上がりました。

歴史的には、Intensivistには全くと言っていいほど使用されず、一方でAnesthesiologistは好んで使用してきたHESですが。
今後積極的に使用する麻酔科医も少なくなるのではないでしょうか?

今回のTrialでは、SV-guided GDTをどのデバイスを用いたかの記載が(Supplementaryを読んでも)私には見つけられず、興味があります。フランスの研究ですが、Flotrac? PiCCO? それともEsophageal doppler?

2020年2月12日水曜日

アナフィラキシー Complications in Anesthesia 輪読会 Chapter 129 (2020/2/4)

”Complications in Anesthesia (3rd edition)”の輪読会を行っています。

https://www.amazon.co.jp/Complications-Anesthesia-Lee-Fleisher-FACC/dp/1455704113


Chapter 129 Anaphylaxis and Anaphylactoid Reactions

Case - 54歳女性, ATH+BSO
propofol, fentanyl, vecuroniumで麻酔導入, 2g cefotetan div
→血圧低下、昇圧薬に抵抗性
エピネフリン100mcg bolus→持続投与
アナフィラキシーの診断で手術は中止。患者はICUへ。
1週間後再手術が予定された。どうする?

アナフィラキシー = rapid-onset, systemic, life-threatening allergic reaction
軽度の血圧低下や気管支攣縮でも、それをアナフィラキシーと認識できないと、同じ抗原に再度暴露された際に致死的になりうる

古典的にはアナフィラキシー(IgE-mediated)とアナフィラクトイド反応(non-IgE-mediated)に分類される

第4級アンモニウム塩(食物、化粧品、その他薬剤に含まれる)への暴露により感作されIgEが産生される→筋弛緩薬などと交差反応を起こす

周術期のアナフィラキシーの原因
第1位:筋弛緩薬(30-50%) 第2位:ラテックス 第3位:抗菌薬
頻度:1/3500 〜1/20000といわれる
非周術期のアナフィラキシーと比較すると重篤になりやすい(背景疾患などのせいで)

アナフィラキシーは二相性反応に注意(10%に起こる)

肥満細胞や好塩基球から放出されるメディエーター(ヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエンなど)により血管拡張+気管支平滑筋収縮 が起こる
non-IgE mediated pathway:カリクレイン、ブラジキニンが関与

Kounis syndrome:冠動脈にある肥満細胞が活性化→冠動脈攣縮

β遮断薬やACE阻害薬を内服しているとより低血圧が重篤になりやすい

筋弛緩薬のアナフィラキシー→大抵はその他の筋弛緩薬にも交差反応性がある
ペニシリンアレルギーの場合、第1世代セフェムは注意 第2,第3世代セフェムはOK?
卵、大豆アレルギーは必ずしもプロポフォールによるアレルギーのリスクにならない。
真の局所麻酔薬アレルギーはまれ:添加されたエピネフリンや溶媒に対する反応であることが多い

Bezold-Jarisch reflexに注意→アトロピンを使うと病態を悪化させて心停止になりうる

血中トリプターゼ濃度:25mcg/L以上で有意
アナフィラキシー後60分でピークに達し、半減期は2時間
蘇生直後, 1時間後, 2時間後, 6時間後, 24時間後に提出すべき

プリックテストや皮内テストは、アナフィラキシーを起こしてから4−6週間後に行うのが望ましい(直後だと偽陰性になりうる、メディエーターが枯渇しているから)

治療
輸液 最低1-2L
アドレナリン 過量投与に注意 ivなら10-50mcgからはじめて、100-300mcgに増量
※β遮断薬内服患者では、グルカゴンを考慮
β刺激薬吸入
ステロイド、抗ヒスタミン薬


#雑感ですが、トリプターゼは外注検査でかつ保険適応外だと思うので、そんなに頻回には採血できないですよね。あくまで傍証にすぎないかと。基本的には臨床診断です。
周術期のアナフィラキシーは、皮膚反応(全身発赤や蕁麻疹)が出ないことが多いように思います。

2020年1月29日水曜日

心臓麻酔勉強会 テーマ:プロタミン 2020/1/28

専攻医のF先生が,プロタミンについて非常にわかりやすくまとめてくれました.

【基本事項】
プロタミンはアルギニンを多く含むポリペプチドである
サケの精子に含まれる成分である
歴史的にはインスリンと組み合わせることで吸収を遅延させ,効果を延長させるために用いられた(NPH製剤)
ヘパリンにも同等の効果を期待して用いられたが,逆にヘパリンを不活化することが発見された
硫酸化合物と塩化化合物があり,後者のほうが分解されにくい(臨床使用されるのは硫酸プロタミン)

【作用】
プロタミンはアルカリ性で,陽性に荷電しており,ヘパリンと1:1で結合し結晶化する
(ヘパリンは酸性で,陰性に荷電している)
単独での投与や過量投与ではわずかな抗凝固作用を発揮する

・ヘパリンを中和する:ヘパリン-ATIII複合体を分解し,ヘパリンと安定した複合体を形成する ※分子量が小さいヘパリンほど中和されにくい
・凝固の阻害:トロンビン合成阻害,第V/VII因子の活性化阻害
・血小板機能の減弱:血小板の活性,凝集を阻害 一過性に血小板数減少させる
・線溶の促進

【副作用】
プロタミン反応の分類
・Type I:低血圧 ヒスタミンの遊離,血管内皮細胞からのNO放出
・Type II:anaphylactoid reactions リスク因子:プロタミンによるアナフィラキシー様反応の既往,NPH製剤の使用歴,魚のアレルギー,精巣摘除術後など
補体古典経路の活性化が関与する
・Type III:肺血管収縮 ヘパリン-プロタミン複合体によって起こる トロンボキサンの放出が原因

副作用の予防に最も重要なのは?→緩徐に投与 10−15min
左心系や大動脈から投与される投与法もある

【投与量の決定】
プロタミン投与量をどう決定するか?
ratio-based, model-based, ヘパリン濃度に基づいて決定(Hepconなどのtitration test)
適切なプロタミン-ヘパリン比は? 0.6~1.0?文献によって異なる
考慮すべきfactor:人工心肺時間(長いほど初期投与のヘパリンの代謝による減衰を考慮する),人工心肺残血の返血法(ヘパリン血 or セルセーバ血),ヘパリンリバウンド

プロタミンの代替薬はある?
PF4, hexadimethrine, メチレンブルーなど…有効性が示されたものはない


#プロタミンについては,BJAの2018年にわかりやすいNarrative Reviewがあります.
Boer C et al. Anticoagulant and side-effects of protamine in cardiac surgery: a narrative review.
Br J Anaesthesia. 2018;120:914-27. PMID:29661409.

2020/1/22 抄読会

Anesthesiology. 2020;132(2):253-266.
Anesthetic Management Using Multiple Closed-loop Systems and Delayed Neurocognitive Recovery: A Randomized Controlled Trial.

術後認知機能障害は周術期のアウトカムとして重要
深麻酔、過剰輸液・過少輸液、過換気がrisk factor
→人間が実際に遵守するのは難しい(適切な麻酔深度、GDT、肺保護換気など)


Closed-loop Automationによる自動麻酔管理は、従来の麻酔科医による手動管理に比べて、術後の認知機能障害の頻度を減らすか?
(編集途中です)

2020年1月22日水曜日

ペースメーカー・ICD植え込み患者の麻酔 Complications in Anesthesia 輪読会 2020/1/21

”Complications in Anesthesia (3rd edition)”の輪読会を行っています。

https://www.amazon.co.jp/Complications-Anesthesia-Lee-Fleisher-FACC/dp/1455704113

当院で最近あったケース
★外科の消化管穿孔の緊急手術で、ペースメーカー植え込み患者の依頼あり。夜中の3時で業者は来院できない。どうする?
→結局マグネットモードを使用した。万が一作動しない場合は、電気メスの干渉でペーシング不全になるリスクを考え、経静脈的ペーシングの使用を考慮したが、問題なく手術終了した。★


CIED=PM+ICD

CIED患者は高齢化により増加傾向にある

胸部Xpで確認:RA、RV lead, ICDのshock lead
CS lead = CRT

ICDはペースメーカー機能をあわせもつ
S-ICD:ペースメーカー機能なし
Leadless pacemaker : VVI(R)のみ

術中の最も多い問題はペーシング抑制と不適切な抗頻拍療法

EMI(electromagnetic interference)
単極型電気メス 対極板の貼る位置に注意 電流がペースメーカーを通らないように
バイポーラは起こしにくい
Ventricular oversensing→pacing inhibition

マグネット
緊急手術にはよい適応(業者がすぐに来れないなど)
不確実性
Leadless PMには使えない

患者がPM植え込み、と言っても実はICDだったりすることもあるので注意

術中の推奨事項
rate responsivenessモードはoffにする
患者の自己脈、リズムをチェック、ペーシング依存かどうか
術中の組織への酸素供給が十分高まるように心拍数を調整した非同期モードにする
ICDは抗頻脈治療(DC, ATP)をoffにする
心電図のフィルターモードをoffにする(ペーシング検知できるようにする)

術後は元の設定に戻し、ちゃんと機能しているかどうか設定確認を行ってもらう
ICDの抗頻脈治療を戻すのを忘れずに。

#モノポーラメスの場合、凝固モードの方がカットモードより電磁干渉が多いというのは初めて知りました。